インタビューココだけ | ナイツ&マジック

迫力のロボットアクション! オレンジが手掛けた 3DCG表現の魅力!「ナイツ&マジック」吉本一貴×長川 準スペシャル対談全文掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

主婦の友社100周年記念&ヒーロー文庫初のアニメ化作品としても大きな話題を呼んだ異世界ロボットファンタジー『ナイツ&マジック』のBlu-ray第1巻が、いよいよ2017年10月27日に発売される! そこで今回は、本作の魅力の一つであるロボット<シルエットナイト>を担当するCG制作集団オレンジに所属する吉本一貴さんと長川準さんにインタビューを敢行。3DCGでロボットを描く醍醐味(だいごみ)を伺った。

それぞれの機体の特徴に合った動きの調節をしています

──これまで多くの作品でCG制作を手掛けられてきたオレンジさんですが、本作では主にどういったことを担当されているのですか?

吉本作中に登場するほとんどのシルエットナイトのモデリングと、各話60カット前後のアニメーションを担当しています。

長川シルエットナイトのモデルについてはセットアップ(動作の設定)や、質感付けなども担当しています。

──山本裕介監督からの要望で、特に印象に残っていることはありますか?

吉本一度作成したモーションから「ここのポーズのパース(遠近法)をもっと強調して欲しい」といった修正が結構ありました。ただ、それをそのままやってしまうと、全体の流れを断ち切ってしまうことがあったんです。なので、スムーズな流れを維持しつつ、その中でポーズもしっかり見せるという調節が大変でした。他にも「ここでカメラの前を横切って」という指示では、単に手前を横切らせるだけではパーツが短く見えてしまうことがあったので伸ばしてみたり、実際にはあり得ないようなパースを付けることもありましたね(笑)。パースの調整自体は難しいことではないのですが、無理やりこのポーズを取らせたと思われないように、流れの中でどう見えるかというところは意識しました。

長川山本監督からは制作が始まった当初から、セル寄りの質感よりもリアルめな絵作りにしたいというオーダーを頂いていました。そのため本作のCGモデルは、弊社がこれまで担当させて頂いた作品に比べ、質感やモデルの作り込みなどが大分リッチなものになっています。且つ、これだけの物量だと、汎用性のあるパーツをできるだけ社外に撒いて量産していくというのがセオリーなのですが、今回は自分の希望でほぼ全ての機体のモデリングや、モデル監修に関わらせて頂きました。と同時に、求められた重厚感のあるリアルな質感などの表現については、弊社のCGディレクターである井野元(英二)とも相談して、「こういう方向性なら、この作品にマッチするのではないか」と模索していきました。そんな中、メカニックデザインを担当されることになった天神(英貴)さんからも様々なアドバイスを頂けたことで、本作におけるシルエットナイトの表現について方向性が固まったように思います。

──本作には多種多様なシルエットナイトが登場しますが、それぞれの機体の個性を出すために工夫されていることは何かありますか?

長川シルエットナイトは新しい機体になるにつれて段階的に派生していくという形なので、機体ごとの関節や四肢のパーツは一見似たようなデザインをしていますが、基本的に一世代上がった機体でも、パーツを完全に使い回すということはせずに、少しずつプロポーションをいじったりしています。モデリングを始めた当初、アールカンバー、グゥエール、カルダトアの3機のモデルを先行して作成したのですが、それぞれプロポーションバランスなどは意図的に差異を付けて作っています。特に腕や足は割と似たようなパーツなのですが、例えばアールカンバーは剣と盾を持った機体というところで、ずっしりとしたプロポーションを心掛け、グゥエールとカルダトアは攻撃的で、且つ、洗練されたスタイリッシュでヒロイックな印象を目指しました。モデリングの作業では、実際にアニメーションを付けた時に見栄えの良いアングルをイメージしながら、各パーツを微調整していった感じですね。

吉本その微調整のために武器パーツが使い回せないという問題も…(笑)。動きの方では山本監督からの要望もあって、旧型のサロドレアは関節をそれほど曲げないとか、腕をそこまで上げないといった制限を設けています。また、新型機ではずっしりとした動きと素早い動きとのメリハリを出すように心掛けています。イカルガは他の機体よりももっと動くので、3DCG的な流れる動きというよりもセル作画的な動きをイメージして作っていて、それぞれの機体の特徴に合った動きの調節をしています。

CGアニメーターも一つのモデルでモーションの付け方に慣れ始めたという頃には、 また違うモデルが上がってきてしまうのでとても苦労していました

──本作では約25体ものCGモデルを作成されたとのことですが、それは1クールのTVシリーズとしては多い方なのですか?

長川もう、エグいですね(笑)。これが2クールで、激しい戦闘シーンがあまりないような話数に、新型機が少しだけ登場するというのなら分かるんですが、本作は毎話戦闘の見せ場があって、そのまま走り続けるので(笑)。CGアニメーターも一つのモデルでモーションの付け方に慣れ始めたという頃には、また違うモデルが上がってきてしまうのでとても苦労していました。

吉本少し言い方は悪いですが、モデルを動かす時は、速い動きの方が誤魔化しが利くんです。逆にゆっくり動かす方が実は大変で、というのも、ゆっくり動いているだけだと、ほとんど動いていないようなつまらない画に見えてしまうんです。本作はずっしり動かす描写がとても多いので、そういう意味では2クールあったとしても、足りないくらい大変です(笑)。

──CGモデルは長川さんが一人で監修されたのですか?

長川自分一人だけで全てを見ることは実際問題として難しいので、アシスタントのモデラーと一緒に作業を進めていきました。色々と検証を重ねていく中で、その作業に関わる人員を必要最小限に絞ったことが、クオリティ管理などの全体の作業を統率しやすくできたと思っています。

──小説や漫画などの原作がある場合、CGモデルを作成する際に意識されていることは何かありますか?

長川これまで弊社が担当してきた作品だと、最初の設定画から100%合わせでモデルを作成し、チェックに回すというのが基本の流れでした。ただ、本作の場合は“ロボット”への強いこだわりを持つスタッフが多かったこともあり、実際に動いた時のバランスなども考慮して「もう少しプロポーションを絞ってください」とか「メリハリを付けるためにマッシブ(大きく重量感がある)な感じにしてください」といった要望が多々出てきました。先行して作り始めた3機のモデルも最初は100%合わせで進めていましたが、それ以降は設定画から60%合わせくらいで作成しています。そこから山本監督や作画監督ともやり取りをして、プロポーションバランスやパーツの調整、セットアップ作業などを詰めていきました。

第8話のトイボックスが戦馬車から銃を取り出して構えて飛び立つところと、
第9話のイカルガの必殺技のカットは個人的に上手くいったかなと思っています

──吉本さんを中心に、各話60カット前後のアニメーションを担当されているとのことですが、どんなところにこだわって作業を進められていますか?

吉本本作では2D的な表現の決めポーズが多用されていることもあり、ポーズからポーズへの流れはこだわりました。決めのポーズも絵コンテなどでイメージ図は何となくありましたが、パースを強調したり、武器を大きく見せたりといった調整が必要でした。最初の1、2話で監督からそういった修正が多かったので、以降の話数ではそれを踏まえた上での作成の仕方を意識しています。本作では新しい発見や気付かされる点が多くて、始めは「こういう修正がくるのか」と思っていても、実際にやってみると「なるほど!」と納得がいくことがあって(笑)。それを似たようなアクションがあった時に活かすようにしています。

──アクションシーンは本作の見どころの一つですが、シルエットナイト同士の戦闘シーンと、魔獣との戦闘シーンでは作業の違いはありますか?

吉本ロボットだから、魔獣だからというところで戦闘シーンの表現を変えているつもりはありません。ただ、戦闘中の見栄えという意味で、通常のシーンよりパーツの可動範囲を広げたり、素早く動けるようにしたり、その辺りは意識的にやっています。

長川魔獣のモデリングに関しては、美術ボードを頂いて、それに最大限近付けるということをやっていましたが、なかなか情報量(再現するデータ量)が膨大な作業になってしまい、シルエットナイトに関しては古い機体と新しい機体というところで、デカール(マーキング)の量などをコントロールしています。当初から「機体にはデカールを貼りたい」という山本監督からの要望がありまして、天神さんからデカールの美術ボードを頂いて3Dで貼り込んでいます。古い機体にはそこまで数は多くないんですが、新しい機体になるにつれて細かいデカールが増えていきます。ただ、それをそのまま貼るだけでは、画面が引きになった時に潰れて(消えて)しまうことがあるので、実際に画になった時のことを踏まえて、「ここの小さいマーキングは省略してもいいですか」という感じで山本監督とも相談しながら、実際に貼り込む量をコントロールして今の状態に落ち着いた感じですね。質感や傷、汚れなどの配分に関しても、担当したモデラーがアドリブでコントロールしたりしていますが、その調整はとてもシビアでしたね。

──手応えを感じているシーンやお気に入りのシーンがあれば教えてください。

吉本第8話のトイボックスが戦馬車から銃を取り出して構えて飛び立つところと、第9話のイカルガの必殺技のカットは個人的に上手くいったかなと思っています。ただ、第9話では少し遊び過ぎてしまったところもあるので、もしかするとリテイクが入るかもしれないです(笑)。

長川止めのカットを少しだけお手伝いしています。個人的に手応えを感じているのは、第1話で魔獣を討伐した後のサロドレアのカットです。倉田翼がエルネスティ・エチェバルリアとして転生して、初めてシルエットナイトを目の当たりにするというシーンで、エルの父親であるマティアスがコクピットから降りた後の、夕陽をバックに膝立ちしているサロドレアのポージングは、設定画よりプロポーションを変えているのですが、それがかっちり決まったかなと思っています。

実際に動いたイカルガの姿を見た時は感動しました

──本作に携わって楽しかったことや嬉しかったことなどがあれば教えてください。

吉本本作では今までやってきたことと真逆のことを依頼されたり、普段やらないことをすることが本当に多かったので、次に繋がる貴重な体験ができた作品だと思います。

長川単刀直入に言って、色々なロボットを作ることができて楽しかったです(笑)。本作ならではのギミックや手足の生えている機体を作る上で、「こういうところは気を付けないといけないな」という課題も見えてきたので、それは他でも活かせるところだと思います。本作では質感表現などを含め、大分重厚さを出してリアルに作っている部分があるので、そのノウハウを洗練させていって、次の作品に上手く繋げていきたいですね。個人的にも会社的にも、とても財産になるプロジェクトだと思っています。

──客観的に作品をご覧になって、本作の魅力はどこにあると思いますか?

吉本テンポの良さが気持ち良いですね。もっとドラマ部分を長く観たいという方もいるとは思いますが、個人的にはこのテンポの良さだからこそ、飽きずに最後まで「次はどうなるんだろう?」とワクワクしながら観ることができるのかなと思っています。

長川ここまで「ロボットアニメらしいロボットアニメ」というのは、近年ではなかったように感じています。作っている側からすると、結構な物量のモデルを作っても、少しの話数にしか登場しないというのは寂しいところもありますが(笑)、逆に言えば少しだけでもロボットが登場してくれることで観ていて飽きないと言いますか、良い感じに凝縮されたロボットの見せ場が楽しめるという意味で、すごく新鮮な視聴体験ができる作品だと思います。

──お気に入りのシルエットナイトはありますか?

吉本新型機のアルディラッドカンバーです。理由は「重さ」ですね。重いロボットが好きかと言われると自分は必ずしもそうではないんですが、アルディラッドカンバーは重厚感を表現できたら格好良いだろうと最初から思っていました。ホバー移動といったスライド移動をして戦うロボットが多い中で、自分の足で“ズシーンズシーン”と走って、重い盾を“グッ”と振り回して戦うというのは非常に格好良いと思います。動かす方としては大変ですけど(笑)。

長川モデリングなどを担当させて頂いて愛着が湧いてきたイカルガですね。イカルガのモデルは山本監督からの要望や、アニメーションを付ける際の動かしやすさも考慮して、設定画からプロポーションバランスなどを大分変更しています。そのお陰で、原作のモチーフとなっている和風の鎧武者や鬼神的なイメージを上手く体現できたのではないかと思っています。イカルガという機体は本作において、デザイン的にもすごく異質なんですよね。その異質さがアニメでもすごく際立って、一際格好良さを放っていると思います。自分はヒロイックなメカより、悪者というか、ダークヒーロー的なニュアンスのものが好きで、“格好良い”だけではなくて“怖い”くらいの方が逆にときめいたりします(笑)。セットアップの作業も、腕がいっぱいあって大変ではありましたが、実際に動いたイカルガの姿を見た時は感動しました。

──では最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。

吉本今後、グゥエラリンデもガンガン動くので、「こんなに動けるのか!」と思って頂ければ嬉しいです。戦闘時には、この世界の中では非常識なくらい動かしているので、面白味があると思います。動かし方や見せ方なども試行錯誤を繰り返している最中なので、話数を重ねるごとに良くなっていくのを期待して観て頂ければと思います。

長川話数を重ねるごとに新型のロボットが多数登場していきますが、特に最終回の最終決戦に向けて“とてつもないもの”が控えています(笑)。そのモデリングの作業が、ちょうど一段落したところなので、あとは動かすのみです。

吉本あれを動かせる人間がいるのかという心配はありますが…(笑)。

長川観てくださっているファンの方の期待を裏切らないものになっていると思いますので、最終決戦に向けて期待のボルテージを上げて見守って頂ければと思います。

左が長川 準さん、右が吉本一貴監督

の付いたインタビューはV-STORAGE online限定の記事です。

PROFILE

吉本一貴(よしもとかずき)
有限会社オレンジ所属。アニメーションCGチーフ。担当作品には『ヱヴァンゲリオン新劇場版:序』『蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』『蒼穹のファフナー EXODUS』などがある。

PROFILE

長川 準(ながかわじゅん)
有限会社オレンジ所属。CGアーティスト。担当作品には『アクティヴレイド -機動強襲室第八係-』などがある。本作『ナイツ&マジック』では約25体ものCGモデルを作成、監修した。

<Blu-ray発売情報>

ナイツ&マジック Blu-ray第1巻
2017年10月27日発売
¥12,000(税抜)

ナイツ&マジック 公式サイト

続きを読む

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

インタビュー

© Bandai Namco Filmworks Inc. All Rights Reserved.