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全4話に新作カットを加えたディレクターズカット版『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』 松尾衡×小形尚弘スタッフインタビュー全文掲載

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宇宙世紀0079の一年戦争末期に“サンダーボルト宙域”で繰り広げられた激戦の裏側、地球連邦軍とジオン公国軍それぞれの重厚な人間ドラマをハードボイルドな作風で描いた、累計発行部数200万部の人気コミックスをアニメ化した『機動戦士ガンダム サンダーボルト』。ESTにて大好評有料配信中の全4話に新作カットを加えたディレクターズカット版『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』が、いよいよ2016年6月25日より2週間限定で全国15館の劇場にてイベント上映が開始された。そんな中、ディレクターズカット版制作の指揮を執る松尾衡監督と小形尚弘プロデューサーの二人が、作品制作の裏側を語ってくれた!

激戦が繰り広げられる追加カットと、より印象的となる音楽演出に期待大!

──『機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY』(以下:『DECEMBER SKY』)は、どういった内容を加えようと考えたのですか?

小形 全4話の作品を1話に、ということなので松尾さんには劇場に観に来ていただいた方に+αで楽しんでくれるようなものを追加しましょうか、という話をさせてもらいました。あと、1話を15分の尺でまとめるとなると、どうしても切らないといけなかった部分があるので、そういうやり残したことを見せられるようならやりましょうか、と。

松尾 そもそも絵コンテをやってた監督・松尾って人が大雑把だから(笑)。プレスコで収録をしたあとで、ラフカッティングっていう作業をやる時に、やばい、2分くらい長いってなって。その時に泣く泣くカットしたシーンがたくさんあるんですよ。そうは言っても、切っても全然いけるって思ってる部分だから切ってるわけですが。ただ、そのカットシーンが実は緩急の役割を果たしていることもあるので、いくつかは戻した方がいいんじゃないのかって話になったんです。でも、観る方にとっては、あんまり緩いシーンが増えても嬉しくないんじゃないかなって思ったので、緩いシーンは入れない代わりに、既存のカットの尺を少し延ばしてシーンチェンジをゆったりするようにしました。観ている方はたぶんほとんど気付かないと思うんですけど、受ける印象は間違いなく変わってくるんですよ。その上で「こういう戦闘シーンを観たかった」と思ってるところを復活させようかなと。作画は大変なんだけど(笑)。第4話の戦闘シーンで、実は1分くらいカットしちゃったところがあって、そこを丸っと残すようにしています。

──1分って、カット数けっこうありますよね。

松尾 30くらい?

小形 フルアーマー・ガンダムとサイコ・ザクがずっと戦ってるんですよね。

松尾 スペースコロニーの中でずっと戦ってるんですよ。市街戦みたいな形で。建物の中だったりとかね。

──エピローグとはまた別で?

松尾 それとは別で。エピローグみたいなところにも2分足して、ということをしています。

──4話で構成するのと、4話をまとめて1話にするのとでは、意識も違いますか?

松尾 基本的には4分の1ずつで成り立つもの、って考え方で作ったから、全部くっつけちゃうと“始まって終わって始まって終わって…”を繰り返しちゃうんですよ。だから時間軸を少し変えた部分もあって、そういうところはカットの並びがずいぶん変わりましたね。あとは音楽を減らしたりとか。この作品は音楽が流れているシーンが多いので、そのまま4話連続で観た時にとっても疲れちゃうんですよ。情報量が多すぎて。でもそれは、1話15分だったら耐えられるだろう、ってことで詰め込んだんですよね。60分だったら、そりゃあ疲れちゃいます。ジェットコースター10連チャンって嫌でしょ?(笑)。菊地成孔さんには少し曲を減らそうと思うんだとご相談して。それには菊地さんも同意してくださって、使われない曲が発生するかもだけど、ちょっと整理した方がいいかもねと。例えばこの作品を最初から60分1話で作っていたら、今くらいの音楽の配分にしたんじゃないかなと思う。

──むしろ音楽を削いだことによってドラマが伝わりやすくなったというところでしょうか?

松尾 音楽がかかるシーンがより印象的になってくれると思います。なので、戦闘シーンの音楽を主に削ってるんだけど、効果音はきっちり入ってるから、観ていて物足りなさはそんなにないかなと。

小形 逆にこんなに効果音をつけてくれていたのねっていう発見を(笑)。

松尾 西村睦弘さんが一生懸命つけた効果音が、音楽で聞こえてなかったなって(笑)。

影の濃淡による独特の手描きメカの数々がミリタリー心をくすぐる

──作画の面では、今の時代には珍しい影の付け方でした。

松尾 スタッフの平均年齢が高いからなんですよ。老眼と四十肩五十肩のスタッフがヒーヒー言いながらやってるので(笑)。

──漫画原作の太田垣さんの絵をアニメにするには、やっぱりあれくらいの濃淡をつけないと絵として成立させづらかったですか?

松尾 最初から決めてたのは、色のコントラストと、明るさのコントラスト。影は濃い目にするんだとか。場合によってはBL影(黒く塗りつぶした影)でもいいよって話もしてました。それとアニメーションキャラクターデザインの高谷浩利さんが、とにかくタッチをちゃんと入れたいっていう話だったから、それは出来る限りやりましょうと。それは元々の絵のニュアンスが大事だからで…。『北斗の拳』なんかも、独特のタッチがなかったら「あれ?」って思っちゃうでしょ。そうすると背景の密度もあげていかなきゃいけないって話になって。ミリタリー感って何かっていうと、生活感だと思うんですよ。要は使い込んだ形跡。戦車なんかのプラモデラーさんって、ウェザリング(対象物をあえて汚し、リアリティを生む技法)をしたりするでしょ? それと同じなんです。作画でそういう作業をやるのはとても大変なんですけど、視覚的な効果は跳ね上がるんですよね。だから宇宙空間であっても、よく掴む部分であったりとか、よく足が当たる部分は汚してくれと。そうするとそこに人が住んでた痕跡が見えるんじゃないかな、って考えています。戦艦の中だと、人が掴むバーは少し鮮やかな色であったりする方が掴みやすくなるでしょって。昔の工場ってグレー一色だったのが、ここ20年くらいは手すりだけオレンジになってたりするんですよ。要するに事故対策ですよね。出入り口の枠だけ色をつけるとか。そういう工夫が戦艦や潜水艦でもどんどん試されていて、昔みたいにグレー一色っていうことはないので。だったらジオンと連邦の戦艦でもそういう色分けをできればいいなって。

──そこでリアリティを表現できると。

松尾 色を塗り分けるだけでそれが得られるならお得じゃない(笑)。

──細かな作業がかなり多い現場のようですが、プロデューサー的にはどうでしたか?

小形 もう、見て見ぬふりをしましたね。心の中で謝りながら(笑)。

──精巧な手描きロボアニメをやったのは凄いことだなと。

松尾 僕らの年代はそれしかできないからさ(笑)。

小形 潤沢な資金と時間があればCGでやってもよかったんですけどね(苦笑)。

松尾 そう。もうちょっと期間がしっかりとれればCGでも良いかなって話はしたんですよ。でもCGにも開発期間がどうしても必要だから。それに、アニメーターの上手い下手っていうのは描いたものを観ればわかるけど、CGっていうのはどうも観ただけじゃわからなくて。そういう色々を考えると、とてもじゃないけど与えられた期間ではできないと。そういう意味では『革命機ヴァルヴレイヴ』は期間がしっかりあったからCGでも全然できたんですけど。だからガンダムでCGもいいとは思うんですよ。でも無理だった。

小形 楽できるならCG使いたいですよ(笑)。

松尾 デブリから何まで全部CGにしてくださいよと(笑)。チェックしてらんないよこんなのって(笑)。

小形 年々、人物の動画ですら描けなくなってるのに、メカの動画を描ける人っていうのは本当に絶滅危惧種に近くなってるので、それを修正しなければと考えてしまうと…。もちろん手描きのメカの方に気持ちよさを感じる世代なので、全部手描きで出来るに越したことはないんですけど。結局のところそれは開発期間なり資金なりがある上でやるんだったらっていう話です。

──太田垣さんからこうしてほしい、という意見はあったんですか?

小形 太田垣さんには最初、メカはCGでやらないんですかって聞かれました。諸事情で手描きでやりますって返しましたが。太田垣さん自身も描かれる際に参考でモデルを組んでからやっていた部分もあったので、これを全て手描きで動かすのは大変と思っていたみたいで。実際に完成した第1話をご覧になった後に「現場スタッフの意地を見せてもらいました」というお言葉をいただきました。また、太田垣さんとは脚本の部分、ストーリーラインに関しては結構やり取りをさせていただきました。コンテ以降はほぼこちらにお任せみたいな形で。これを切る、これを足しますっていう判断は、松尾さんが書いたシナリオの段階でジャッジしてもらったので、あとはこっちで作るだけでした。

──制作で一番苦労されたところは?

松尾 音楽だったかも。苦労したんじゃなくて、これでいいって踏ん切りをつけるのが。第2話でイオとダリルが戦ってる時に、交互にテーマソングを流しちゃうと、何やってるかわかんなくなっちゃう。これをラジオから聞こえてる音なんだって割り切った処理をいれてもやっぱりだめで、音楽も戦闘もたたなくなってしまって。だったら今はイオが優勢で進めてるならイオの曲にしよう、ダリルが優勢ならダリルの曲に切り替えよう、と決めました。決めた後は楽だったんだけどね。

小形 第4話のフルアーマー・ガンダム対サイコ・ザク戦のラスト、イオが上から来て、ダリルが気絶してる時に「このジャズが聞こえた時が〜」って言ってるシーンなんですけど、ジャズは聞こえないんですよね。ポップスなんです。だからダリルが優勢に立つ演出、ということです。

資料の少ないコロニーですら事細かに創造し、物語のリアリティさの裏づけに

──お二人が会心の出来だと思ったシーンはありますか?

松尾 僕は絵のことになるけど、コロニーの厚みかな。コロニーってね、今までの作品ではずいぶんと薄く描かれてて。今回はコロニー自体が壊れまくってるから断面が見えまくってるんですけど、コロニーの断面図がどうなってるのかって資料が全然なくて。でも堅牢な建物に対してGがかかってるっていうことは、外壁に対して力がかかってるってことなんで、それに耐えうる構造物が内部にあるだろうと推測しました。その構造物のさらに内側には地下鉄が走ったり地下道があったり、ライフラインのパイプが走っていたりするはずなので、そういったものが断面から飛び出しているように見えるよう、こだわりました。建築の勉強をしてたから、どうしてもそういうところに目が行っちゃって。

小形 僕は、話数的には第2話が気持ち良かったなって思うんですけど。一番って言えば、この作品を象徴してる第4話のラストシーン、イオとダリルが二人で話してるところの嫌な感じが好きで。なかなか他には無い作品なので、気にいってますね。誰一人幸せにならないというか、二人の本性が出て、より地獄が続くっていうのがあそこに出てると思うので。

──最後に、読者へのメッセージを一言お願いいたします。

小形 『DECEMBER SKY』は菊地さんの指示で音楽を変えた部分が新鮮に見えたので、全話観て下さった方でも楽しめると思います。あと、ファンの皆様に喜んでもらえるようなご用意もしておりますので、エンドロールが終わるまで座っていていただければと(笑)。

松尾 初見の方にも「ガンダムなんてわかんない」っていう風に思わないで観てほしいですね。およそ敵味方は区別がつくと思うので、宇宙世紀がどうとか、設定がどうだとかはあるんだけど、それが大枠のストーリーの邪魔をしてるわけじゃないから、まずは主人公二人のストーリーを追いかけて観てほしい。その後でファーストガンダムを観てもらうと、納得できるのかなと。観てくれるとありがたいです!

の付いたインタビューはV-STORAGE online限定の記事です。

PROFILE

松尾 衡(まつおこう)
アニメーション監督。『ローゼンメイデン』第1期が初監督作品。主な代表作に『革命機ヴァルヴレイヴ』『模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG』などがある。

PROFILE

小形尚弘(おがたなおひろ)
サンライズ所属のプロデューサー。『ガンダム Gのレコンギスタ』や、現在放送中の『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』などのプロデュースを担当。


<上映情報>
機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY
2016年6月25日(土)より全国15館にて[2週間限定]イベント上映!


<Blu-ray&DVD発売情報>
機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY Blu-ray Disc COMPLETE EDITION
【BVC/初回限定生産】
2016年7月2日発売
¥10,000(税込)
※上映劇場にて2016年6月25日より最速先行販売開始


機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY Blu-ray&DVD
2016年7月29日発売
Blu-ray:¥6,800(税抜)
DVD:¥5,800(税抜)

機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY Blu-ray Disc COMPLETE EDITION
【BVC】特設サイト

機動戦士ガンダム サンダーボルト 公式サイト

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