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『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』髙橋渉(監督)×うえのきみこ(脚本)スペシャルインタビュー[しんちゃん通信]

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幼稚園児なのに学園ミステリー⁉ 映画『クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』は、超エリート学園内で次々と起こる事件の真相を解き明かすため、しんのすけたちが立ち上がる物語! おバカなミステリーに笑っているうちに、「青春とは何か?」「コンプレックスとは何か?」「友情とは何か?」が怒涛のように押し寄せる感動作は、どのように生まれたのか? 髙橋渉監督と脚本のうえのきみこさんにお話を伺った。
(※インタビューは映画本編のネタバレを含みますので、ご注意ください)

──本作を観て、泣くとは思いませんでした! 感動しました!

うえの本当ですか!?

髙橋まさかこんな感動的なストーリーになるとは、みんな思ってなかったです(笑)。

──改めまして、幼稚園児が主役なのに学園ものという設定は、どのように発想されたのでしょう?

髙橋劇場版ではこれまでいろいろなジャンルに挑戦してきましたが、どれも楽しかったんです。そこで、ぜひ今度は学園ものというジャンルにチャレンジしたいと思っていました。テレビシリーズでしんちゃんが学園祭に行くようなエピソードがあって、しんのすけと学生たちとのやりとりが面白くて心に残っていたので、しんのすけたちが小中一貫校に体験入学して年上の学生たちと絡むというお話にさせてもらいました。ちょっと強引だけど、『しんちゃん』ならいいかな、と(笑)。

──髙橋監督は以前から「学園ものをやりたい」とおっしゃっていましたね。

髙橋案として何度か出したことはありましたが、別の企画が選ばれていたので、くすぶっていたところがありました。今回は思いっきりやれて嬉しかったです。

うえの構想4年半ぐらいでしたね(笑)。私も学園ものはずっとやりたいと思っていたので、お話をいただいたときは「ぜひ!」という感じでした。

髙橋うえのさんにはノリノリでやっていただきました。

──ちなみにお二人の印象に残っている学園ものとは、どんな作品でしょう?

髙橋マンガですが『コータローまかりとおる!』が印象的でした。巨大なマンモス学園が登場するんです。途中でまるっきりストーリーが変わってしまうところも楽しかったですね。

うえの私にとっての学園ものはスケバンかスポ根ものです(笑)。世代的には『スケバン刑事』とか『スクール☆ウォーズ』のような作品ですね。ヤンキーが出てくる作品も多かったです。

髙橋うえのさんと僕は同年代なんですけど、あの頃、学園は荒れていたんですよ(笑)。あと、学園ものといえば、鉄仮面は外せませんでしたね(笑)。

──番長がつけているのは『スケバン刑事Ⅱ少女鉄仮面伝説』に出てくる鉄仮面ですね。

うえの学園といえば、やっぱり鉄仮面(笑)。生徒たちが並んだとき、絶対一人は鉄仮面を被った人がいてほしい(笑)。生徒の中に謎の人物がいる感じがいいですよね。

お客さんが正気に戻らないように次々と展開を繰り出していきました

──今回はタイトルに「謎メキ!」とついているように、中盤は学園ミステリーがストーリーの軸になっていました。

髙橋初期の初期には、学園に裏の組織があって……という案もありましたが、それでは場所を変えただけでいつものお話と変わらなくなってしまうと感じました。せっかく学園という舞台があるのだから、普段とは毛色の違うミステリーが合うんじゃないかな、と。

うえの私はミステリーを書いたことがなかったので不安でしたが、会議で渉さんが「青春はミステリー」とポロッと言って「あっ、そっか!」という感じになりました。「つながった!」という感じです。

髙橋思いつきをつぶやいたら響いてもらえました(笑)。学園ミステリーといえば、赤川次郎さんもよく読んでいましたね。

──かなり突拍子もないトリックでしたが、これはうえのさんが考えたのですか?

うえのいえ、みんなで考えました! 風間くんのダイイングメッセージ(※風間くんは死んでいません)は見た人に怒られないか不安でしたが、やってよかったです。トリックについては試行錯誤しました。噴水の仕掛けは難しかったですね。ここを成立させるために、他の仕掛けも考えていくような感じでした。図書館の設定も、最後のほうの会議で決まったんですよ。

──時計塔という舞台も面白かったです。

髙橋ミステリーというと時計塔というイメージがありますね。時計塔で風間くんが吸ケツ鬼にお尻を噛まれる、というところだけ先に決めておいて、あとは逆算でいろいろなことを決めていきました。ただ、あの仕掛けは今見ても、もうちょっと真面目に考えたほうがよかったかな(笑)。

うえのでも、アニメじゃないとウォシュレットで飛んでいくのはできないからいいと思います!

髙橋お客さんが正気に戻ってツッコミを入れないように、次々と展開を繰り出していきました(笑)。

──ミステリーなので犯人探しが中心になるのかと思いきや、明確な悪者がいないストーリーも面白かったです。

髙橋最初から悪人がいないストーリーを考えていたわけではないんです。当初、(真犯人の)サスガくんは、もっと酷い目に遭う予定でした。ただ、まだ中学生ですし、彼にも未来を残しておきたいと思い、今の形になりました。動機自体もチシオちゃんへの恋慕だったので、性根から悪いヤツではないんですよね。情が湧いてしまったんです。

──学園長やオツムンも悪者ではないですよね。

髙橋オツムンも酷い悪役にすることはできましたが、そんなにシンプルな話にしなくてもいいかな、と。「悪いヤツをやっつけておしまい」ではないほうが、『天カス学園』という作品に合うと思いました。暴走することがあっても、何かを学んでより良い道を見つけられれば。天カス学園は、みんなの教育の場なんですよ。

風間くんは少し未来を見ていて、しんのすけは今しか見ていないんです

──しんのすけと風間くんの関係をストーリーの軸にしたのは?

髙橋風間くんが何かしらの被害に遭って、それを解決するお話は最初から決まっていましたね。

うえのお尻を噛まれておバカになった風間くんは、もっと意思相通ができなくなる予定でしたよね(笑)。でも、ちょっと行き過ぎな気がしたので、今ぐらいに落ち着きました。

髙橋完成した作品でも意思疎通はほとんどできていませんでしたけどね(笑)。

──ラストもしんのすけと風間くんの物語でした。これも最初から決まっていたのでしょうか?

髙橋最初といえば、防衛隊ではなく野原一家が学園に入学するという案で進めようとしたのですが、プロデューサーから「これは風間くんとしんのすけの話でしょう!」という声が上がったんです。今の形になったのはプロデューサーのお手柄だと思います。

──しんのすけと風間くんは親友でもあり、ライバルでもありますが、二人の関係をどのように捉えていましたか?

髙橋風間くんは、しんのすけに「違うだろ!」とガツンと言ってくれる唯一のキャラクターですよね。ボケ続けるしんのすけにツッコミを入れてケンカになるキャラクター性はとても魅力的だと思います。今回も仲良しぶりを強調するより、二人のぶつかり合いを強調できるお話になればいいと思っていたので、最後もケンカしながら決着をつける感じにしました。仲直りも「僕が悪かったよ!」みたいな素直になりきれず、お互いに張り合っているままにしたかったんです。

──お互いの主張はしっかりとありつつ、少しだけ相手のことを理解するような終わり方でしたね。

髙橋はい。それがいいな、と思っていました。

うえの唯一、しんのすけがちゃんとケンカできる相手が風間くんですよね。英語塾に通っていたりして少し考えの大人な風間くんはしんのすけより少し未来を見ていて、年齢なりの考えのしんのすけは今しか見ていない。風間くんはエリートになりたいけど、しんのすけは「今、一緒にいて楽しいからいいじゃん」と思っている。でも、風間くんは自分がエリートになったら「もうお前とは一緒にいられない」と分かっているんですよね。

──風間くんはみんなで天カス学園に行きたかったんですものね。

うえの風間くんは「なんでこの気持ちを分かってくれないんだ!」と思っているんです。観てくれている人もきっとこのような経験があると思うので、何かを感じ取ってくれたのではないでしょうか。

──原作にあった名セリフが使われていましたね。

高橋プロデューサーに「僕のともだちは心がエリートです」という原作のセリフを教えてもらいました。臼井儀人先生らしい、すごくピュアで素敵な言葉だと思うのですが、「映画にいただきました」という感じで安直にお借りするのはためらいがあったんです。ただ、シナリオを何稿も重ねていくうちに、しんのすけと風間くんのお話として力強いものになったと思えたので、使わせていただきました。

チシオの顔は「とにかくひどい顔にしてほしい」とお願いしました

──チシオをはじめ、コンプレックスを抱える人物がたくさん出てきます。髙橋監督とうえのさんは中学生の頃、コンプレックスを抱えていましたか?

高橋ありました、ありました。

うえの私はコンプレックスの塊でしたね。登場人物には、中学生ぐらいの子が持っている悩みを入れたいなと思っていたので、コンプレックスは外せませんでしたね。

高橋中学生ぐらいの頃の悩みって、大人から見たら「なんでそんなことを悩んでいるの?」ということが多いと思うんですよ。でも、本人にとってはすごく切実なんですよね。こういう悩みは、自分を確立するために必要なもの。大人にとってはたいしたことのない悩みだけど、本人にとっては重大な問題だというところが映画の中でも出せたので、観客のみなさんに伝わったら嬉しいですね。

──チシオのコンプレックスも大人から見たらどうでもいいかもしれませんが、本人にとっては切実な悩みでしたね。チシオの走っている顔は、どのようにアニメーターさんに発注されたのでしょう?

うえのたしかに気になりますね(笑)。

高橋ちょっと意地悪な話なのですが、見ている人は絶対に笑えるようにしてほしかったので、キャラクターデザインの三原三千夫さんに「とにかくひどい顔にしてほしい」とお願いしました。最初に今の顔が上がってきたのですが、僕は「もっと崩れてもいいんじゃないかな」と思って三原さんに相談したら、「いやぁ、これぐらいじゃないと可哀想じゃないですか」と言われまして(笑)。いつもまわりの方たちが、ちょうどいい感じにブレーキをかけてくれて助かっています。アドバイスを聞いておいて良かったな、と思います。

うえのどう表現されるんだろう? と思っていましたが、出来上がったものは、最近のアニメではあまり見たことのない表現になっていて、「さすがだな」と思いました。

──ろろもユニークなキャラクターでしたね。

うえの渉さんが「野生のひきこもりです」とおっしゃっていたのですが、「野生のひきこもりってどういうことだろう?」と思いました(笑)。

高橋中学生ぐらいでも厭世的になるのって、ありえると思うんですよね。「この学校がゾンビに襲われればいい」と極端な妄想したり。だから、ろろちゃんのように極端な生活をしている子がいてもいいと思ったんです。

うえの孤独が好きな子でもいいじゃん、って感じですね。

──お二人は思い入れがあったり、自分に近いキャラクターはいましたか?

高橋僕はマサオくんみたいなポジションだったんですよ。すぐに誰かに影響を受けてしまう子どもでした。あんな格好はできませんでしたけどね。もっと地味な生徒でしたね。

うえの私はあの登場人物たちでさえキラキラして見えました(笑)。

高橋悩みはあっても、みんな楽しそうですし、充実してそうですよね。

うえのいろいろな生徒がいられる天カス学園っていい学校ですよね。私立なのに誰も辞めさせられませんし。

高橋学園のシステムについては各方面からツッコミをいただきました(笑)。

──キャラクターといえば、増尾くんと鈴木くんが登場しました。双葉社に在籍する実在の編集者さんで、ファンにとっては懐かしい二人でしたが、どうして登場することになったのでしょう?

高橋風間くんと同じように吸血鬼にお尻を噛まれておバカになってしまう生徒として登場してもらいました。普通の男の子がおバカになってしまった姿を描くのは、いくらアニメとはいえ痛々しくてしのびなかったんです。それなら、増尾さんと鈴木さんという絶好のイジられキャラがいるじゃないかと思い立ちまして、二人に犠牲になってもらおうと(笑)。

うえのお二人は脚本会議にも出席されていましたからね。脚本を読んでいるんだから、いいじゃない、って(笑)。

高橋公認なので大丈夫です。「ちょっとおバカすぎじゃない?」とか「娘に見られたくない」とおっしゃっていましたが(笑)。

──『天カス学園』を観終わった後、どんなことを感じ取ってもらいたいですか?

うえの私としては、「ああ、楽しかった!」と笑って観てくれるのが一番ですね。

高橋コロナ禍で学校生活や社会環境が一変してしまい、楽しく過ごせるはずの日々を奪われて、みんな悔しい想いをしたと思います。そんな欝々とした気持ちを少しでも晴らせますようにと願いながら作った映画です。失敗や後悔やおバカにまみれててもしんのすけ達のように青春を突っ走ってほしいですね。

PROFILE

高橋渉(たかはし わたる)
1975年生まれ。多くの劇場版『クレヨンしんちゃん』に携わった後、『ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(14年)で長編映画初監督を務める。監督作品に『爆睡!ユメミーワールド大突撃』(16年)、『爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』(18年)。『クレヨンしんちゃん外伝 シーズン4 お・お・お・のしんのすけ』(17年)ではシリーズ構成と脚本を務めた。

PROFILE

うえのきみこ
1975年生まれ。『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』(13年)にて初めて劇場版『クレヨンしんちゃん』の脚本を担当(共同執筆)。その後、『オラの引越し物語 ~サボテン大襲撃~』(15年)、『爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』(18年)、『新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』(19年/共同執筆)を手がけている。

<発売情報>

Blu-ray
好評発売中
税込価格:¥5,280
品番:BCXA-1693


DVD
好評発売中
税込価格:¥4,180
品番:BCBA-5109

映画 クレヨンしんちゃん 公式サイト

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