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沖田修一監督最新作『おらおらでひとりいぐも』11月6日(金)公開記念 四宮義俊インタビュー

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『南極料理人』『モリのいる場所』などを手掛け、数々の国内外の映画賞を受賞してきた沖田修一監督が芥川賞&文藝賞を W 受賞した若竹千佐子のベストセラーを映画化。沖田修一監督最新作『おらおらでひとりいぐも』が11月6日(金)より公開となる。今回お話を伺ったのは、「絵画」「映像」と言った枠にとらわれず、それぞれの領域を行き来しながら創作活動を続けるかたわら、『言の葉の庭』のポスターイラストや、『君の名は。』の回想シーンの演出などをてがけた四宮義俊さん。本作に携わることとなった経緯や、制作したアニメーションパートの制作方法などについてお話を伺った。

──四宮さんは美術家・日本画家としての活動のみならず、アニメーション制作に関しても精力的に活動されておりますが、今回の実写作品の中のアニメーションパートの制作に関して、意識していたことはありますか?

四宮ここ数年、アニメの映像に実写を入れ込むという作品は2つほど作っていました。ひとつは2018年の「トキノ交差」という作品で、その時が初めての挑戦ですね。2019年にはポカリスエットのアニメCMを作りましたが、こちらの作品でも実写パートがあります。アニメと実写の融合は好きですし、元々、実写作品の制作にも興味がありました。そういった現場を見ることも多かったので、自分なら実写の中に入れるアニメも作れるのではと思っていました。

──今回はあらかじめ尺が決められている中で、四宮さんが絵コンテから作っていったのでしょうか。

四宮そうですね。アニメ全般の話ですが、尺はすごく重要です。ただ、実写撮影のスタッフの方にはアニメの制作についてイメージできていない部分があるだろうと、制作に入る前から思っていて。たとえばアニメの尺で1秒増えるか増えないかのニュアンスはわからないだろうなと。そこでややこしいことが起きないように、尺は1分に固定しましょうとこちらから提案させてもらいました。そうしないと、たとえばアニメにもいろいろなテイクが作ってあって、編集時に差し替えができるのでは、尺も増減できるのでは……とイメージされてしまうと大変ですから(笑)。

──今回の作画作業をするにあたって、マンモスの動きなどを描くために参考にしたものはありますか?

四宮インターネットの動画でゾウの動きを観たりはしましたが、今回の制作に合わせて現場で見ることはしていません。ただ、象の動画こそ観ましたが、マンモスが本当はどう動いていたのかなんて誰も知らないですよね(笑)。だからこそリアルさを追求するよりも、アニメーションとして楽しめるものにすることを優先しました。

──今回、いわゆる水彩的なビジュアルの表現を中心に制作されていたと思います。映像として今回の表現方法を考えられたのは四宮さんですか? それとも、事前にそういう映像にするという依頼でしたか?

四宮初めは鉛筆だけとか……もっとシンプルな形で、水彩という言葉は誰からも出ていなかったと思います。途中から色をつけましょうという話になって。ビデオコンテを作ったあとくらいの段階だったかなと。最初に作ったビデオコンテは白黒だったので、僕が水彩で彩色した方が収まりも良いのではないか、と言ったのだと思います。

──映像表現の美しさは見ていて本当に楽しめました。水彩の表現を利用して体毛の長い部分を描くなど、毛並みがいろいろ変わっていくような見せ方。ご提案されたのが四宮さんとのことですが、色味もかなりこだわられましたか?

四宮色彩はアニメにとって、ひとつの大きな武器です。既存のマンモス表現と差別化したいという思いもあり、この映像独特のものとしての色彩を選んだつもりです。今回で言えば、マンモスはすごく重みを感じられる生物ですよね。その重みを毛並みに関する色で表現しようと……たとえばお腹側に入る反射光をあまりとらず黒々とさせると、画面が重苦しいだけでフレッシュになりません。そうならないよう、マンモスが軽やかに見えるような色にして、巨体が持つ重みは動きの方で表現しています。水彩の表現に関しては、今回手伝ってもらったスタッフの中に日本画を生業としている方もいるので、上手くハマった感じですね。

▲四宮さんが手掛けられた躍動感溢れるマンモスのワンシーン。作中でのキーとなる展開で登場する。

──背景の色も、遠くの山にうっすらと色が入っているだけで、あとはほとんど白という画面構成になっているのがとても印象的でした。画面が暗くなり過ぎないようにという意識でしょうか。

四宮今回のように手描き風の絵で、かつ水彩にしている場合、背景に色があり過ぎると映像がパカパカして見えてしまい目も疲れてしまいます。そうならないよう背景を白っぽくするのは常套手段でもありますね。ムラが目立ちづらくなります。途中段階の映像をご覧になられた沖田監督からも、くっきりしていた背景を少し弱めてほしいという意見があったので、そう調整した部分もあります。

──そのほかにも制作する中で変化していった要素はありましたか?

四宮当然のことではあるのですが、最初の打ち合わせの段階では実写の撮影データがなかったので、アニメパートの前後のカットがどのようなものがわかりません。その後上がってきた撮影素材を見るとリアルな原始人が登場していました、シナリオを見ただけではそのシーンの絵は想像できていませんでした。そのシーンを見てから、じゃあこの原始人をアニメパートに登場させましょうと。ビデオコンテに登場させました。結果として前後のシーンがきれいにつながった感じになったかなと思います。逆に変わらなかったことも挙げると、沖田監督たちは原始人が自分たちで狩ったマンモスの肉を食べているところは入れたいと。本編のテーマのひとつが生と死ですから、そこに沿うシーンになっていると思います。

▲突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることになる桃子さん(田中裕子)の前に、「おらだばおめだ。」と現れる3人の"寂しさ"たち。

──実写作品の中でアニメーションパートのみが突出しないように意識はしていましたか?

四宮沖田監督の作品なので少しオフビートな感じというか、特別な間の取り方みたいなものは意識しなければいけないのかなと思っていました。それと、アニメパートは自分の世界で完結させられますが、実写パートはいろいろな人が関わってできている画なので、どうシンクロさせるかも気を遣ったところです。ただ、監督との初めてのお仕事で、なおかつ間の取り方は意識してできることでもないので……。編集データをお見せして、何かあれば意見をもらって調整するという方法をとりました。あまり意識しすぎて職人みたいな作り方にしたくはなかったので。その中で自分の色はこれだよ、ということが最終的には出せればそこがゴールだと思っていました。自分の作品だと言えないものを世に出しても仕方ないですからね。自分が素材を扱いさえすればアニメでも実写でも自分の色、自分の作品になると感じています。

──今回手掛けられた中で一番苦労されたシーン、カットはどこになりますか?

四宮マンモスがノートから飛び出すところですかね。実写からアニメに移るシーンをどこまで違和感なく見せられるかが勝負、みたいな。急に飛び出すと格好悪いですし、「このマンモスは動くんじゃないかな」と観客に思わせる間の取り方、予兆みたいなものを細やかにやらないといけないと思いました。そう思わせる動作として、瞳をパチパチさせました。ここはデリケートに作らないと台無しになってしまうと思っていました。今まで作ってきた作品でも、実写がアニメに切り替わるシーンをどう作るかが一番難しくて、一番楽しかったですね。絶対に何かしらの違和感はあるのですが、その違和感をどこまで無くせるかを考えるのが面白いです。

──今回の作画は全てデジタル作業でしょうか?

四宮今回はデジタル要素と手描き要素があります。手描きはマンモスの色、水彩部分。マンモスの線画はデジタル上で、鉛筆の質感のペンで描いています。アニメーションソフトのブラシがよくできているのであまりアナログと区別がつかないかもしれません(笑)。まずはマンモスの線画をデジタル上で描いてそれを印刷にかけて、1枚1枚水彩で着色して再度スキャンしました。ただ、枚数が多すぎてスケジュールが押してしまったので、一部だけデジタルで塗っているところがありますが……たぶん見てもわからないです(笑)。

──本編をご覧になられて、刺激を受けたシーンというのはありますか?

四宮アニメパートの直後にCGのマンモスが出てくるシーンですね(笑)。アニメは絵空事なので、軽いマンモスでも重いマンモスでも、どんな嘘でも許容してくれます。でもCGは圧倒的な情報量が表現ができる、現実の代用品ですから、その差別化は今後も意識しなければダメだなと。それに今回はトリッキーなシーンも多いので、アニメパートが埋没しないようにしていくことは大事だなと思って制作しました。

──最後に、ご自身が手掛けられたアニメーションパートで一番ここに注目してほしい、というシーンはどこでしょうか。

四宮原始人がたくさん出てくるところでしょうか。マンモスの乱戦シーンでも使ってもらっていますが、原始人の細やかな演技は……1回観ただけでは追いきれないと思います(笑)。それぞれ個性のある動きをしてくれていて賑やかになっていますので、ぜひ何度も観てひとりひとりに注目してあげてください。

PROFILE

四宮義俊(しのみや・よしとし)
1980年生まれ。美術家・日本画家・アニメーション作家。日本画家として絵画を軸に、立体、映像など多彩な創作活動を行う。その活躍の場も個展をはじめ、CMや広告、企業商品など各メディアへと広がる。アニメーションでの代表作に『言の葉の庭』(ポスターイラスト)、『君の名は。』(回想シーン演出)、渋谷スクランブル交差点での四面連動ビジョン放映で話題になった『トキノ交差』など。また、監督を務めた『ポカリスエット・アニメCM』(インドネシア)では1500万PVでYouTubeインドネシア当月第1位を獲得。現地アニメイベントへのゲスト招聘など、近年ではアジアでの評価も高まる。

<上映情報>

おらおらでひとりいぐも
2020年11月6日(金)より全国公開!

【あらすじ】
1964年、日本中に響き渡るファンファーレに押し出されるように故郷を飛び出し、上京した桃子さん。あれから55年。結婚し子供を育て、夫と2人の平穏な日常になると思っていた矢先…突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る毎日。しかし、ある時、桃子さんの“心の声=寂しさたち”が、音楽に乗せて内から外から湧き上がってきた!孤独の先で新しい世界を見つけた桃子さんの、ささやかで壮大な1年の物語。

【STAFF】
監督・脚本:沖田修一/原作:若竹千佐子/撮影:近藤龍人/照明:藤井勇/録音:矢野正人/美術:安宅紀史/編集:佐藤崇/音楽:鈴木正人/主題歌:ハナレグミ「賑やかな日々」/アニメーション:四宮義俊/フードスタイリスト:飯島奈美

【CAST】
田中裕子/蒼井優/東出昌大/濱田岳/青木崇高/宮藤官九郎/田畑智子/黒田大輔/山中崇/岡山天音/三浦透子/六角精児/大方斐紗子/鷲尾真知子


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