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かわぐちかいじ原作、初の実写映画化!『空母いぶき』福井晴敏(企画)インタビュー

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大ヒット作『沈黙の艦隊』や『ジパング』で知られる巨匠・かわぐちかいじの同名漫画『空母いぶき』が、西島秀俊、佐々木蔵之介らオールスターキャストで待望の実写映画化! いよいよ2019年5月24日(金)より劇場公開される。そこで今回は、大人気アニメ『機動戦士ガンダムNT』&『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』のシリーズ構成や脚本に携わり、本作では企画としてクレジットされている福井晴敏さんにインタビュー。本作に参加することになった経緯や、映画制作の舞台裏など、ここでしか聞けない話をたっぷりと伺った。映画本編を観る前に、ぜひご覧ください。

戦闘機を一機落としただけで非常に沈痛な空気になるので、 戦争映画を見慣れている人は驚くと思いますが、それこそがこの映画の醍醐味です

──かわぐちかいじさん原作『空母いぶき』の映画化はどのような経緯で始まったのですか?

福井かわぐちさんとは昔からお付き合いがあって、映画を一緒にやりましょうというお話は以前からありました。一つ進めていた別の企画があったんですがなかなか実現に至らず、その際に『空母いぶき』の映画化のお話を頂き、そちらを進めていくことになりました。ただ、原作では中国を敵国としているので、今の時代にそれをそのまま実写化するのは難しいですよね。ただ一方で、原作には現実の問題を取り入れた際物的な面白さが一つの核としてあります。これを取っ払って、果たしてこの企画に勝機があるのか、物凄く考えました。最終的にこの企画をやるべきだと思い至ったのは、原作が描きたいことというのは実は相手がどこかということは重要ではないと気付いたからです。ここのところの風潮として、昔の日本は勇敢だったという内容の作品がとても流行っていますが、それは今現在の世界情勢の中において何の役にも立たない訳ですよ。実際にそういう事態を迎えた時に、勇敢に立ち上がって戦いますか? 戦った結果は、皆さんも70年以上前の戦争で知っていますよね。今の日本が戦争状況に一方的に巻き込まれてしまった時にどう対応するのか、そのことに対して真摯に向き合うのは凄くやりがいがあるし面白いんじゃないかと思いました。今回は、架空の国を設定することでリアリティが損なわれてしまう危険性もありましたが、そこよりもとにかく自衛隊側の対応やメンタルをしっかり描くことで何とか乗り切れるんじゃないかと考えて、『空母いぶき』の企画を進めました。

──映画化を進めていく中で意識されたことはありますか?

福井今の時代、核戦争が起こったら世界中の人が死ぬのは最初から見えていますから、冷戦以降に生きる人たちは“戦争で戦わなければいけないのはもはや相手国ではない”という共通観念を何となく持っています。じゃあ、本当に戦わなければいけないものは何だろうかと考えた時に思い浮かぶのが、“戦争”そのものです。戦争そのものをどう封じ込めて、そこに行かないように手前で収めるのか。その戦いが重要になってくるだろうなと。外務大臣同士が角突き合わせて言い合ったり、戦争になる一歩手前で秘密工作機関のエージェントが頑張って戦争を回避したりするような話はいっぱいあるんですけど、現実というのはそう都合良くいかないので、今の日本の周りでもこの4〜5年の間で一触即発の事態は結構起こっていますよね。日本人は犯罪に巻き込まれたら直ぐに110番、怪我をしたら119番に連絡します。ただ、戦争に巻き込まれたらどこに連絡すればいいのか誰も知らない。自衛隊の存在が憲法上で曖昧なままだから、当然学校教育も曖昧で、その辺の部分が抜け落ちたまま社会に出てしまっています。そして、いざ戦争が始まったら、自分とは無縁な自衛隊員たちが代わりに戦ってくれるんだろうなと、多くの人は漠然と思うはずです。ところが実際は、少なくとも高校生までは自衛隊員も皆さんと全く同じように育ってきた人たちなので、考え方も一緒です。同じテレビや映画を観て笑っているはずです。だから、「中にいる人は死ぬけど、あの敵機を撃ち落としてください」と命令を受けた時に、「はい、分かりました」と答えてポンとボタンを押せますか? そんな簡単に押すことはできないはずなのに、その部分が今までは見過ごされてきました。今回はそこをきちんと描くことで、日本ならではの戦争映画ができるんじゃないかなと。戦闘機を一機落としただけで非常に沈痛な空気になるので、戦争映画を見慣れている人は驚くと思いますが、それこそがこの映画の醍醐味です。どうもあの艦に乗っている人たちは、自分たちと同じ感覚を持った人たちらしいぞということが段々と伝わってくると思います。今の日本が置かれている状況はどういうことなのか、戦争が始まったらどうなるのか、何に気を付ければ良いのか、お客さんを巻き込みながら一緒に考えていける作品ですね。

映画を作っていて思ったのは、戦争を防ぐには基本的に「我慢する」しかないということでした

──企画としてクレジットされている福井さんはどのような形で本作に関わっているのですか?

福井細かな部分はプロデューサーの小滝(祥平)さんにお願いして、私はこの“難物”を映画としてきちんと成立させるためにどうやって整えるかに注力しました。代わりの敵をどう設定するかなど、主に方向性の部分です。原作から要素を書き起こしてドラマを作っていく作業は、脚本の伊藤(和典)さんと長谷川(康夫)さんにやって頂いて、設定などの大枠に手を加えていきました。また、原作は連載中なので当然結論は出ていませんが、この映画の中では我々が考えた一つの結論を出さなければいけないので、その部分を考えました。

──脚本制作は具体的にどのように進めていったのですか?

福井結末をある程度決めた上で伊藤さんと長谷川さんには作業に入ってもらいました。最初の脚本では、あるシーンで主要人物が原作通りに生きていて、他の出番の少ない登場人物の死が描かれていたんですけど、より感情的に過酷な状況に変更しました。映画を作っていて思ったのは、戦争を防ぐには基本的に「我慢する」しかないということでした。今の時代は、SNS上で全てを吐き出せてしまうので、お互いが何となく憎悪をぶつけ合っている状態ですよね。究極的には、それ以上踏み込まないためにグッと一歩を我慢するしかない。90年代くらいから、我慢すると一方的にやられてしまうからこちらから攻めて行かなければいけないという論理が優勢だったんですけど、その先に待っているのは結局地獄しかないことがこの10年くらいで身に沁みて分かってきました。映画の中でその踏みとどまる勇気を際立たせるには、より我慢できない状況を作った方が良いだろうと思い、その我慢できない感情をお客さんと共有したかったんです。ただ、その変更点について最初は「酷すぎるだろ」と凄く反対されました(笑)。確かに酷すぎるんだけど、それに耐えてみせることがこの企画をやる上で重要なことだと思っていました。

戦争映画と期待して観ると、おやっと思うところはあるかもしれませんが、
これは今の日本が直面し得る問題をきちんと描いた最初の戦争映画だと思います

──キャストの方々の抑制された演技が印象的でしたが、実際にご覧になっていかがでしたか?

福井皆同じ制服を着ているのでそれぞれのカラーを出さないと、誰が誰だか分からなくなっちゃうじゃないですか。でも、どこか悲しそうだったり楽しそうだったり、自然と各艦のカラーが出ていました。怖い顔の艦長の艦には乗りたくないですね(笑)。

──完成した本編をご覧になった率直な感想を教えてください。

福井初めて観た時は失敗しか目に付かないんですけど、3〜4回目でやっと「感動的なシーンはちゃんと泣けるようにできているな」と客観的に観られるようになってきました(笑)。他の人がどう感じたのか聞いてみたくなる作品にはなったのかなと思います。

──福井さんでもご自身が関わった作品を客観的に観ることが難しいんですね。

福井それは無理ですね。やらかしたところしか目に入らないですよ(笑)。自分の中の理想形があった上で脚本を書くんですけど、どれだけ近付いたとしても当然そこには達していないですね。若松(節朗)監督は脚本に忠実で、次から次へと進めていく職人だったので、安心してお任せできました。

──見どころや注目ポイントを教えてください。

福井戦争映画と期待して観ると、おやっと思うところはあるかもしれませんが、これは今の日本が直面し得る問題をきちんと描いた最初の戦争映画だと思いますので、話の種としてもぜひ観て欲しいですね。それと、役者陣が大変達者で今をときめく豪華な陣容がズラッと揃っています。戦闘シーンの間に挟まれるコンビニのシーンの撮影は立ち会えなかったんですが、出来上がった映像を観て仰天しました(笑)。息抜きとして、中井(貴一)さんが良い芝居をしていましたね。また、昨今の映画よりも編集から何からじっくりと作っているので、90年代の大作映画を彷彿とさせる面構えになっています。CGの技術も10年前と比べると格段に上がっていて、全くストレスなく楽しめると思いますのでぜひ注目して観てください。

今回の企画は、日本でも戦争アクションができないかなというところからスタートしています

──福井さんが、現代に生きる人々に向けて物語を発信し続ける理由は何ですか?

福井ここのところ(別の作品で)宇宙に行っていたので、発信するのは久し振りですよ(笑)。一番の理由は他にやっている人がいないからだと思います。今回の企画は、日本でも戦争アクションができないかなというところからスタートしています。色々と調べてみると、日本はとことん戦争ができないようになっていて、その不便さとどう戦うかを描いているのが『亡国のイージス』(2005年公開)です。ここ10数年で、その不便さと向き合って戦争をどう封じ込めていくかについて真剣に考えていかなければいけなくなりました。今回の企画は提案を受けて始まったものなんですが、結果的にやって凄く良かったなと思っています。

──かわぐちかいじさんのご感想はお聞きになりましたか?

福井「漫画というのは終わらせちゃいけないもの」という言葉は印象に残っています。漫画とは、なるべく長く続いて出版社と雑誌を支えていかなければいけないもの。だから、話が上手くまとまりそうなポイントはどんな漫画にもありますけど、プロの漫画家は話が終わりそうになったらマズいと思うそうです。「実は漫画は一つのテーマについて語りきったり、答えを出すのにあまり適していないジャンルだけど、その一方で、映画は答えを出さないとダメなんだね」と仰っていました。原作から変更している点に関しては全面的に受け入れて頂いて、映画的な作品の捉え方に納得された様子でしたね。

──かわぐちかいじさんから映画化に際して具体的な提案はありましたか?

福井「安易に恒久的平和が来るというものにはしたくない」と仰っていました。原作にも「人間は新たな玩具を手にすると、それを使いたくなるのが性です」という秋津のセリフがあるように、これからも人間は兵器や戦争と完全に決別することは恐らくできないだろうと。「その手前で踏み留まるところまでは描けるけど、戦争を永久に根絶するところまで行くと血肉もリアリズムも無くなってしまうから、安易に理想主義には行かないでくれ」と言われました。

とても作り込まれた世界の中に、何を考えているか分からない神のような人間が一人だけいる。
その中で巻き起こるダイナミズムがかわぐち作品の最大の魅力だと思います

──かわぐちかいじさんの作品の多くが映像化(アニメ化)されていますが、福井さんからご覧になって、かわぐち作品の魅力はどこにあると思われますか?

福井もちろん現実と地続きな感じがするリアリティは大きな魅力なんですけど、それだけでなく読者の目を惹きつけるお芝居に秀でていて、とにかくキャラクター作りが上手いんですよね。神のような人間で何を考えているのか分からない秋津、地に足が着いていて読者の代弁者でもある新波。対照的な両者の対立を軸にしている作りは、『沈黙の艦隊』(1988年から1996年まで連載されたかわぐちかいじ作の漫画作品)も同じです。『沈黙の艦隊』の海江田も、『空母いぶき』の秋津も、結局最後まで何を考えているのか分からない。かわぐちさんは超人的なキャラクターの底を決して割らないんですよね。とても作り込まれた世界の中に、何を考えているか分からない神のような人間が一人だけいる。その中で巻き起こるダイナミズムがかわぐち作品の最大の魅力だと思います。ただ、これを実写に置き換えた時には、役者さんという血肉が必ず生じてしまいます。そうなると、何かしらの背景が見えなければいけない訳ですけど、今回の秋津に関しては沢山のセリフと最後の表情で「実はこの人、背伸びをしているだけだったのか」と思ってもらえる作りになっています。特にその辺に関して若松監督と深く話し合った訳ではないみたいですけど、秋津役の西島(秀俊)さんが的確に汲み取って、ちゃんと最後は人間的なところに寄せてくれました。昨今は漫画を実写化した映画が山程ありますけど、漫画の魅力の大部分はキャラクターによるもので、連載を終わらせないようにできているから起承転結も取っ払っていることが多いので、実は漫画は一番映画との相性が悪いものなんですよ。だから、役者がただキャラクターの模倣をして失敗することが往々にしてあります。そういう点で見ると、今回の『空母いぶき』は実に幸せな結婚ができたんじゃないかなと思います。

──本編同様に空母《いぶき》内での緊迫したやり取りが描かれるボイスドラマ「第5護衛隊群かく戦えり-女子部-」についてはいかがですか?

福井てっきりゆるふわなものだと思っていたので、凄くシュールだなと思いながらアフレコに立ち会いました(笑)。今は「艦これ」(艦隊これくしょん)のような戦艦ものに目を向けている層がいるので、その人たちにも興味を持ってもらえたら良いかなと思います。

──今回の『空母いぶき』をどのような方に観てもらいたいですか?

福井日本人の全層に向けて作っていますが、特には年配層、且つ我々ぐらいの中高年の層にも足を運んでもらえたらいいなと思います。今は骨太な企画が全くない訳ではないんですが、役者に極端な芝居をさせて顔芸で見せるどうにも漫画みたいな作品が多くなっていますよね。そういう作品にイマイチ乗れない人たちも、落ち着いて観られるドシンとした作品ができたらいいなという想いはありました。いざ、出来上がってみると、本当に色んな人に観てもらいたい作品に仕上がったなと思っています。

PROFILE

福井晴敏(ふくいはるとし)
1968年生まれ、東京都出身。脚本家・小説家。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』『機動戦士ガンダムUC』『人類資金』など、多くの著作が映画化されている。近年はアニメーションや実写、漫画などの原作・脚本に軸足を置いた活動を行っている。主な作品に『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』『機動戦士ガンダムNT』などがある。

 


公開情報
空母いぶき
2019年5月24日(金)より全国超拡大ロードショー!

 

配信情報
ボイスドラマ『第5護衛隊群かく戦えり-女子部-(映画「空母いぶき」より)』全三章
2019年5月12日(日)より映画『空母いぶき』公式サイト特設ページにて配信開始!
■第一章:2019年5月12日(日)18時配信開始
■第二章:2019年5月13日(月)18時配信開始
■第三章:2019年5月14日(火)18時配信開始

空母いぶき 映画公式サイト

映画『空母いぶき』特集サイト“V”的極秘ファイル

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