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スペシャルインタビュー第1回 監督:森山 洋「好奇心を試す。それが『メガロボクス』」

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青春漫画の金字塔『あしたのジョー』連載開始50周年企画として、新たに制作されるオリジナルTVアニメ『メガロボクス』。本作が監督デビュー作となる森山洋監督は、小池健監督(『LUPIN THE Ⅲ RD 次元大介の墓標』)、荒木哲郎監督(『進撃の巨人』シリーズ)作品でイメージボードなどを担当した気鋭のクリエーターだ。 不朽の名作の“魂”を受け継ぎ、現代に受け継がれる注目作に込める、作品への思いを伺った。

○森山監督の手腕についてのスペシャルコラムはこちら


『あしたのジョー』連載開始50周年から生まれたオリジナル

――最初に、監督がこの企画に参加された経緯を教えてください。

森山3~4年前にお話いただいたのはプロデューサーの藤吉さんからなのですが、もともとは『メガロボクス』というタイトルでも企画でもなく、単純に『あしたのジョー』が連載開始50周年を迎えるにあたって再びアニメ化したいということで、監督としてのオファーをいただきました。タイトルがタイトルですし、その時点では自分には合わないというか、できない仕事なのではないかと思いお断りしつつありました。しかし、どういうものになるかはわからないけれど、企画成立のために手伝えることがあるなら一緒にやっていきたい、と考え直して参加させていただくことになりました。原作のスピンオフをはじめ、様々な切り口でアイディアを出し合い、かなりの時間を費やしました。

――最終的にオリジナルTVアニメ作品『メガロボクス』として制作するに至った経緯を教えてください。

森山開発を進める上で、脚本家の真辺(克彦)さんにも参加していただいて、力石の過去を掘り下げるという切り口にも挑戦してみましたが、何だか上手くいかず、一旦、企画自体が止まりました。そこで、原点に立ち返って、改めて“『あしたのジョー』の物語でどういうことができるのか?”というラフな話し合いをして生まれたものが“舞台を近未来に置き換える”ということでした。そこから徐々に『メガロボクス』という企画を作り上げてきたという感じですね。

――原作の持つ骨子は引き継ぎつつ、舞台設定を別にして作ると。

森山そうですね。最初は単純に“近未来で(原作の)キャラクター達を置き換えてやってみるか”という話をしていましたが、それならいっそのこと完全に“オリジナルでテーマ的なものを引き継ぐ”ということで考えてみたらどうかということになりました。

近未来が舞台だからこそ描ける“今”という時代性

――舞台を近未来に置き換えたことで、描きやすくなった部分と描きづらくなった部分はありましたか?

森山個人的にはやりやすくなりましたね。長い開発期間の中、様々な案が生まれました。その中で、我々の中で絶対にブレなかった点は、『あしたのジョー』をリスペクトした上で、どんな切り口やストーリーになったとしても、自分たちが面白いと思えるものを作るということ。決して、奇をてらった案として近未来という設定が生まれたわけはなかったんです。『あしたのジョー』という作品は、ある時代を象徴している作品だと思っています。あの時代だからこそ生まれた作品というか。でも逆に、作品の中で描かれるテーマやドラマはもの凄く普遍的でした。多分、どの時代でも受け入れられる。
だったら、『あしたのジョー』が描かれた『あの時代』がもし『近未来』だったらどんな物語になるだろか。そんな考えから『メガロボクス』の骨子が出来上がりました。誰も知らない時代を作るということで、困難さは増しましたが、その分、一から作り上げていくことの楽しみも多かったです。

――舞台設定が近未来、それを視覚的に視聴者に提示するために、(ボクシングの際に体に装着する)ギアの存在は大きいと思います。発想としては必然的に出てきたアイディアですか?

森山そうですね。近未来という設定と合わせて出てきたアイディアです。もともとの『あしたのジョー』はボクシングものではありますが、リアルスポーツというよりも“漫画スポーツ”としてのジャンルに近いと思います。単にボクシングを描くだけではない、試合の中でキャラクターたちの人生や生き様が映し出される。我々が描こうとしていたものも同じ方向性でしたが、それだけでは単なる模倣になってしまう。そこでメカニック的なガジェットを一つ加え、なおかつ単純なメカバトルにはならず、『ギア』という存在もドラマに組み込める要素として活かせるぞ、という確信が制作中に生まれていきました。

――森山監督にとっての『あしたのジョー』体験はどんなものですか?

森山学生の頃に漫画を読みました。『あしたのジョー』って僕なんかよりも熱いファンの方が大勢いらっしゃると思うんです。僕も大好きな漫画ではありましたけど、純粋に面白い漫画の一つという感じでした。その後、19歳、20歳くらいの時にアニメ版を初めて観ました。アニメ自体もともと好きでいろいろな作品を観てはいたのですが、僕は基本的に実写映画の方が好きで、そちらの体験の方が多いと思います。そんな中でアニメ版『あしたのジョー』は(実写と)同一線上で自然に観られたというか、ドラマを追って観ていたという、そういう体験が記憶にありますね。アニメを観ているという感覚よりも、出﨑(統)監督の演出であったり、絵柄であったり、原作の持つストーリーの力であったりすると思いますが、そういうものに惹かれていた印象があります。

――『メガロボクス』では、出﨑監督の演出を意識する部分はありましたか?

森山その意識はないです。これまでのアニメ版をあまり意識せず、原作にあったテーマ性というものを掘り下げていき、それを『メガロボクス』に引き継いだ時に、どういうことができるか、ということを話し合って作っていった印象です。

――原作・そしてアニメに共通して漂う“泥臭さ”を『メガロボクス』にも感じました。

森山泥臭さ…それはたぶん脚本の真辺さんのお力が強いのかなと思います。昔の物に近づけようとしたわけではないのですが、結局キャラクターの感情的な部分などを掘り下げて脚本にして、映像にしようとした結果、泥臭くなったというか。完全に今っぽい感じではなくなりましたね(笑)。今風なものを目指していたわけではないのですが。

――昨今のアニメだけを観てきている方にとっては、描線ひとつとっても驚かれると思います。

森山驚いていただけると嬉しいです。ただ、それと同じくらいあまり馴染めない方もいらっしゃると思います。それでも、これだけたくさんのアニメがある中、これくらいの絵柄の振り幅はあった方が楽しいのではないかと。

――描線もセルアニメ時代のトレス線のように感じました。線のカスレ具合とか、筆圧の強弱がしっかりと出ていて。

森山そうですね。そういった描き方は意識しています。その点も泥臭さを感じさせる一因だと思います。

――背景の描写もそうですよね。

森山完全に“人の手で描いた”という印象を出したくて。そこは強く押し出してもらいました。

――森山監督の経歴を見ると、描写に対するこだわりが本作につながっている気がします。

森山そうだといいのですが。『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』でご一緒させて頂いた監督の小池(健)さんは特にそうですね。線に強くこだわる方なので。その影響は受けていると思います。

口では到底説明できないから描くしかない

――絵作りの部分でも今回はかなりご自身から意見を出されたのですか?

森山はい。オリジナルということもありますし、原案が『あしたのジョー』と言う誰もが知っている名作である以上、そのオリジナル企画をやりますよと言っても、口では到底説明できないので描くしかないと思い、スタートの時点でそれなりの量のイメージボードや、キャラクターのイメージを描かせてもらいました 。『 メガロボクス』とは、こういう作品で、こういう絵柄でいきたいんです』という方向性を示してスタッフの皆さんに共有していただきました。

――完成した『メガロボクス』の映像は監督のイメージされていた通りの雰囲気ですか?

森山はい。先ほどセルアニメっぽい雰囲気とおっしゃっていただきましたが、自分の中では90年代のOVAを観ているような印象の映像を作りたいと思っていました。単純にセル調にするのではなくて、テレビのブラウン管を通して観た映像のような、画面処理的にも昔のビデオ映像に近い感じのものです。

――ちょっとにじんでいたり、ぼやけていたり?

森山そうですね。実作業的にいえばちょっと(映像を)粗くしてもらっています。今はどんどん絵をきれいにしていく作業が主流ですが、逆行させて絵を汚く、ノイズをかけていくというか。それのちょうどいいバランスを撮影さんと探りました。全編にそのフィルターがかかるので、最終的にはすべての画面がベストな状態に持っていけたと思っています。

――キャスティングについてはいかがでしたか?

森山完全に音響監督の三好(慶一郎)さんの力をお借りしました。自分が役者さんにあまり詳しくないというのもありましたし。三好さんは普段アニメ作品だけでなく、海外映画の吹き替えも多く手掛けられている方なので、『このキャラクターがもし実写に出るならこの役者』というイメージで、映画雑誌の切り抜きなどでまとめた参考資料を作成し、『この俳優の吹き替えを作るなら誰を使いますか?』というやりとりをさせてもらいました。そのやり方が割と上手くいったようで、その後、三好さんの方で絞っていただいた候補の中から、我々がオーディションをするという流れでしたが、選んでいただいた候補の方々にキャラクターとして的外れな方は全くいなくて、さらにその中で最もイメージに当てはまった方にお願いすることになった、という感じでしたね。

『メガロボクス』という作品を映像と音楽がシンクロして想起できるものにしたかった

――音楽的な部分も作品の世界観にマッチしていましたが、監督を始めとするスタッフの趣味が影響していますか?

森山両方ありますね。mabanuaさんを選んだのは(僕の)趣味でもあるのですが、純粋に『メガロボクス』の世界で、この町で流れているのはどんな音楽か?と考えた時に、自分のなかではヒップホップ、ブラックミュージックが流れている感覚がありました。『メガロボクス』という作品を映像と音楽がシンクロして想起できるものにしたかったんです。ですから、アニメ版『あしたのジョー』で流れていたフォークやブルースとはまったく別の音楽として、大好きだったブラックミュージックを使おうと。偶然にも真辺さんをはじめ、賛同してくださる方がすごく多くて、そこはスムーズにいきました。

――音楽が流れることで、劇中のほこりっぽさの空気感が出てくるというか。

森山そうですね。mabanuaさんの音楽の力のお陰だと思います。また、今回はオリジナル作品として、誰も全く知らない世界の話を描かないといけない。特に近未来、架空の世界をやる場合、まずは舞台説明の段取りを取ることが多いと思うのですが、『メガロボクス』の場合は、限られた時間の中で、舞台や世界観よりも人間をきちんと描きたかったんです。そうなると世界観の説明は何でするか、じゃあラップで補完しようという感じで本編中にラップシーンを取り入れました。足りない部分はあると思うのですが、劇中の人物がラップを口ずさんでいれば、なんとなく町の雰囲気が漂わせられる。単なるBGMではなく、不足している説明をラップという世界観にあった表現で補いました。

――『メガロボクス』をどういった方にご覧になってほしいですか?

森山『あしたのジョー』という作品自体を知らない方はほぼいないでしょうし、アニメを観る方だったらどこかで名前を聞いたことがある作品だと思うので、当然『あしたのジョー』を観ていた世代を意識してしまうところはあります。そして『あしたのジョー』に触れたことがない若い方がいらっしゃったなら、『メガロボクス』を観て、逆に『あしたのジョー』を観てみたいと思ってくだされば嬉しいです。往年の世代と若い世代、意識するのは両極端ですが、とくかく沢山の方々に観ていただきたいです。

――読者へメッセージをお願いします。

森山今の時代を語れるタイプの人間ではないのですが、僕自身インターネットで何かを見ることはものすごく多いですし、片や雑誌を買って読むのも大好きです。今は自分の好きなものを選んでそれを得ることができる時代なので自分もそれを享受しています。しかし、テレビアニメって見るものを選べない場だと思うんですね。(電源を)つけるかつけないかの選択はもちろんありますが。いろいろなアニメーションが流れているところに、普段は主体的に手が伸びない『メガロボクス』のような泥臭い作品をたまたま目にする機会があった時、人って何か感じるものだと思います。自分が全く想像もしていなかったけど、俺こういう作品好きなのかもしれないっていう風に、今のテレビアニメを観る方たちにも、そういう感覚を体験していただけないかなって思っています。是非そんな体験をしていただける作品になれば嬉しいです。

PROFILE

森山 洋(もりやまよう)
1978年生まれ。マッドハウスを経て、現在フリー。過去に『進撃の巨人』ビジュアルコンセプトや『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』プロップデザイン、『甲鉄城のカバネリ』コンセプトアート/デザインを担当。初監督作となる『メガロボクス』でも、たぐいまれなるビジュアルセンスを如何なく発揮する。

<放送情報>

4月5日(木)深夜25:28〜TBS他にて放送開始!

メガロボクス 公式サイト

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